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トコジラミの生存を支える共生細菌ボルバキアのビタミンB7合成能力③

遺伝子の水平転移で獲得したボルバキアのビタミン合成遺伝子群

【用語の説明】
◆トコジラミ
別名ナンキンムシ(南京虫)。学名Cimex lectularius。半翅目トコジラミ科に属する昆虫で、ヒトやその他の動物の血液のみを餌とする。夜行性であり、昼間は寝具の隙間や壁の割れ目などにひそみ、夜間に隠れ家から出てきて吸血する。重篤な感染症を媒介するという報告はないが、衛生害虫、不快害虫である。特に近年、殺虫剤に抵抗性のトコジラミが北米、オーストラリアなどで増えており、再興衛生害虫として問題となっている。
◆ボルバキア
昆虫類、その他の節足動物、フィラリア線虫にみられる共生細菌。αプロテオバクテリアに属する。昆虫類ではきわめて普遍的に見られ、百万種以上の昆虫類のうち種レベルで半数以上がボルバキアに感染していると推定される。細胞内に存在し、卵巣内で卵形成の過程で卵に感染することにより次世代へ母性的に垂直伝達される。ほとんどは宿主に有益な影響のない寄生的な共生細菌で、細胞質不和合、雄殺し、単為生殖誘導、性転換など宿主の生殖を操作する能力をもつ系統の存在が知られる。フィラリア線虫とトコジラミでは例外的に宿主の生存に必須な相利共生細菌である。
◆遺伝子水平転移
遺伝子(DNA) は通常、生物の繁殖に伴い親から子へと受け継がれる。ところが生物の個体間や種間で遺伝子の受け渡しがおこる場合があり、これを遺伝子水平転移という。
◆ビタミンB7(ビオチン)
ビタミンB群に分類される水溶性ビタミンの一種で、カルボキシル基転移酵素の補酵素として働く。腸内細菌叢により供給されるため、通常の食生活の成人には欠乏症は発生しないが、抗生物質の服用による腸内細菌叢の変調、生卵白の大量摂取時(ビオチンと強固に結合するアビジンを含むため)、また新生児では先天性あるいは栄養性の欠乏症がおこることがある。
◆相利共生
異なる生物の双方が利益を得るような共生関係のこと。片方が利益を得るがもう一方が損をするような関係は寄生、片方が利益を得てもう一方は損も得もないような関係は片利共生という。
◆ビタミンB群
水溶性ビタミンのうち、ビタミンB1(チアミン)、ビタミンB2(リボフラビン)、ビタミンB3(ニコチン酸)、ビタミンB5(パントテン酸)、ビタミンB6(ピリドキシン)、ビタミンB7(ビオチン)、ビタミンB9(葉酸)、ビタミンB12(シアノコバラミン)の8種の総称。いずれも生体内において補酵素として働く。
◆菌細胞塊
共生微生物を保有するために特殊化した細胞(菌細胞という)でできた宿主生物の共生器官。多くの場合、共生細菌は菌細胞の細胞質内に局在する。トコジラミでは菌細胞塊にボルバキアだけが存在するが、アブラムシやヨコバイなどでは複数の種類の菌細胞が異なる共生細菌に感染したうえで集合して菌細胞塊を構築している。
◆オペロン
同時に発現が制御される複数の遺伝子が存在するゲノム上の領域、あるいはその複数の遺伝子のグループのこと。単一プロモーターによって転写された一次転写産物(メッセンジャーRNA)から、複数の遺伝子産物(タンパク質)が産生されるという形で、協調して機能するタンパク質群を産生する。おもに原核生物(細菌)に見られ、真核生物(動物、植物など)にはほとんど存在しない。
◆アナプラズマ
αプロテオバクテリアに属する細菌の1属。ヒト顆粒球アナプラズマ症を引き起こす病原体のほか、さまざまな家畜感染症の病原体が含まれる。系統的にはボルバキアと近縁である。
◆カルディニウム
バクテロイディテスに属する細菌の1属。寄生蜂、コナジラミ、ウンカなどの昆虫類に広く感染が見られる寄生的な共生細菌である。ボルバキアと同様に細胞質不和合、雄殺しなどの生殖操作をおこなう能力をもつ系統の存在が知られる。
◆リケッチア
αプロテオバクテリアに属する細菌の1属。ダニ、ノミ、シラミなどの吸血性昆虫により媒介される発疹チフス病原体や紅斑熱病原体など人畜の病原体として知られるが、メンバーの大部分は昆虫類やその他の無脊椎動物に広く感染が見られる寄生的な共生細菌である。
◆ローソニア
δプロテオバクテリアに属する細菌の1属。ブタなどの動物に腸腺腫症を引き起こす病原体(Lawsonia intracellularis)が含まれる。
◆羽化率
昆虫が生まれてから成虫にまで達する割合。[成虫に羽化した個体数]÷[産まれた卵の数]× 100 (%)で求められる。
  

国立研究開発法人産業技術総合研究所HPから抜粋